― 海部川紀行 その3 ―
夜はテナガエビの目が光って見えるという話を本で読んでいたので、水中ライトを手に、夜の海部川に潜ってみた。

本に書いてあったとおり、ライトの光に反射してそこら中でテナガエビの目がピカピカ光る。
おーこりゃ面白い!
あちこち照らして歩いていると、今度は誰かが仕掛けたカニカゴの中に、でっかいモクズガニが5、6匹ほど掛かっている。たくさんのカニが暗闇の中でガサゴソと不気味にうごめく様は、まるでモンスターの巣窟だ。

夜の水中探索にすっかり夢中になって、もっと面白いものはないかなーと探していると、なにやら得体の知れない気味の悪い物体が視界に飛び込んで来た。目の前の石と石のすき間から、青黒くてぬらりとしたものがぬぼっと飛び出ているのだ。一瞬背筋がゾワワーっとしたが、それが直径5cmはあろうかという大きなウナギの頭だということに気が付くのに、それほど時間はかからなかった。

相手がウナギとわかったからには、とっ捕まえて食わねばならない。オイラの頭は瞬時にへっぴり腰モードから狩猟モードに切り替わった。
しかし一体どうやってコイツを捕まえたものか。手には水中ライトが一丁あるだけなのだ。素手でウナギを捕まえたという話はついぞ聞いたためしがないが、落ち着け、きっと何か手があるはずだと自分に言い聞かせた。
なにせ相手は手をのばせば届く距離でじっと動かないでいるのだ。

冷たく暗い水の中で必死に考えた挙句に思いついたのは、半開きになった口に指をつっこんでひきずり出す、という作戦である。
肉食の魚なので歯はそれなりに鋭いはずだとは思ったが、多少の怪我は覚悟の上で実行に移すことに決めた。
息を詰めて、そろーりそろりとウナギの口に指を近づける。
あと3cm・・・あと2cm・・・あと1cm・・・。
ウナギはまったく動かない。
あと5mm・・・あと3mm・・・。
よし、今だ!と指先に力を込めようとした途端、ウナギの頭はスススッと引っ込んで消えていった。
あちゃー逃げられたー!
しかし次の瞬間、ゴゴゴゴ・・・という地響きのような音がどこからともなく聞こえてきた。なんと、ガッチリと積みあがった川岸の石を、馬鹿力で無理やり動かして逃げ道を作っているらしいのだ。
そのことを理解した途端、自分はとんでもない化け物を相手にしてるんじゃなかろうかという気がして、また背筋がゾワワーッとした。
地響きが止むと、さっきまで顔をだしていた場所から少し離れた場所に、またスーッとウナギの顔が現れた。ウナギは何事もなかったかのようにじっとしている。完全に振り出しにもどった状態である。

ゴゴゴゴ地響きパフォーマンスを見せ付けられ、口の中に指をつっこむのがちょっとオッカナクなっちゃったので、ここは気をとりなおして、作戦を練り直すことにした。
さっきの動き方からすると、引っ込む時は後ずさりをする感じでそれほど素早くは動けなさそうなので、勝機があるとすればそこしかない。ウナギが殺気を感じて後ずさりを始めてから、石のすき間の奥に完全に消えてしまうまでの0.5秒くらいの間に、超スーパーミラクル必殺攻撃を叩き込むのだ。
なにか武器になりそうなもの、たとえば金属の棒とか、固くてとがった木の枝のようなものが周りに沈んでいないだろうか。あまりウナギから目を離さないようにしながら辺りを見渡してみたが・・・・ない。なーんにもない。見事にきれいさっぱり何にもない。
さっきからしつこくオイラの足の皮をつっつきにきている、でっかいテナガエビの手をもぎ取ったら使えるかな?ともちょっと考えたけど、ウナギの皮をつらぬくほど強度がないのは、夕方炭火であぶってビールのつまみにした時に確認済みだ。

これじゃちょっと無理かもな・・・。あきらめムードが濃厚になってきた。ウナギと対峙してもう10分以上たっている。体は完全に冷え切り、奥歯がカタカタいい始めた。
うーむ、困った。あきらめるにあきらめきれないけど、打つ手がない。このままにらめっこを続けていても、風邪をひくだけだ。
と、遠くからザクッ、ザクッっという足音が聞こえてきた。懐中電灯の光もチラチラみえる。誰かがこっちに向かってきているのだ。
もしや!?
おーーー!
やっぱりそうだ!ひこまっくすママだー!

夜の川に潜るといって闇に消えてから、長いこと戻ってこないので、心配して探しに来てくれたのだ。
ウナギが逃げてしまわないことを祈りながら、そーっと水から顔を上げ、手短に状況を説明したあと、ヤスと網を持って来てくれと頼むと、ひこまっくすママは
「わかったー」
とのんきな返事をして、テントに戻っていった。
このギリッギリの状況がわかってるんだろうかと若干心配になったが、あとは待つしかない。
そうだ、ウナギはまだいるだろうか?
おそるおそる顔を水中に戻すと・・・、いる。
ようしようし!
5分もまてば道具は揃うだろう。それまでに、もういちど作戦を確認だ。
左手にライト。右手にヤス。首根っこを思い切り突き刺したあと、暴れられてもヤスが抜けてしまわないように、根元をしっかり押さえておいて一気に引きずりだす。後は落ち着いて岸にあがり、万一に備えてヤスで刺したまま網にいれてミッションコンプリート。まあこんなとこだろうか。ライトを持っているので、両手が使えないのがちょっとツラいがまあ何とかなるだろう。

ひこまっくすママが道具を持って戻った。今度はウナギから目を離さないよう、顔を水の中にいれたままでヤスを受け取った。いよいよだ。頭のなかで作戦の流れをひととおりイメージしてから、ヤスのゴムをめいっぱい引き絞り、ウナギの首に狙いを定めた。
ふーーっ。スノーケル越しにおおきくひとつ息をつく。

南無三!!!

ガツン!!!

すかさずヤスの刃先を探ると、ぬめっとしたウナギの体に触れた。
刺さってる!!
ようし!作戦どおり、抜けないように手で押さえ込んで、一気に引きずりだす。立ち上がりざまに水から引き上げるとズシリと重い。
大きいぞ!!!
と、ここまでは作戦どおりだったのだが、ここからが違った。

作戦イメージでは、このあとウナギは体をくねらせながらヤスの先にぶら下がることになっていたのだが、実際にはなんと一瞬にしてグルグルヌルッと腕にからみつき、ギリギリヌメヌメと締め付けてきたのだ。
うえ゛ぇぇぇーーーっ!
オイラはあまりのコワ気持ちわるさに完全に理性を失い、無我夢中でウナギを振りほどくと、あっちいけーー!とばかりに刺さったヤスごと岸のほうへぶん投げてしまった。

はっ、こりゃイカン。
すぐに我にかえったけれど、あたりは真っ暗。
取り乱しながらウナギを振りほどいたときに、水中ライトを水の中に落っことしたらしい。あわてて水の中からライトを拾い上げ、ウナギをぶん投げたあたりを照らす。
いた!!!
ウナギはまるでヘビのように体をくねらせながら、かなりのスピードで移動中だった。
首根っこを貫通していたヤスは、ぶん投げたときに抜けたらしい。大あわてで駆けよって、つかもうとするが相手はウナギ、しかも長くて重い。ヌルリヌルリと逃げられてしまう。
こりゃ手じゃ埒があかん!
えーと、そうだ! 網だ、網、網!!!
進行方向に網をあてがっておいて、手でそれとなく枠の中へ導いてやると、ウナギはゾロリンっと体をくねらせて網の中に入ってくれた。

やたーーーーーーーーーっ!

獲ったどーーーーーーーーーーっ!!!

大声で叫びたかったけど、ぐっとこらえて、一人ガッツポーズ。
こうして、長い長い闘いが終わった。
80cmオーバーのウナギ!
次の朝、5時にひこまっくすをたたき起こして記念撮影。
測ってみたら80cm以上もあったのだ!
で、デカい!!!

ウナギの3枚おろし!
ナイフで3枚におろしたところ。
思いがけず上手にさばけたので我ながらビックリ!
さーて火でもおこすべえか
ハナちゃんと一緒に火をおこして・・・
早く焼けないかな。
超肉厚のウナギの蒲焼!!!と行きたいとこだったけど、
調味料は塩しかなかったので、残念ながらウナギの塩焼きに…。
それでも馬鹿ウマだった。
これが蒲焼だったら、ほんとヤバかったかも。

3人+1匹ではとても食べ切れなかったので、
ちかくのテントのみなさんにおすそ分けして、何とか完食。

いやー、楽しませて頂きました。
ウナギさん、ありがとう!!!
海部川、ありがとう!!!

あ、あと、最後まで読んでくれたみなさん、
ありがとう!!!
(なんかダラダラ長くなっちゃいました。すんません。)

トラックバック

このブログ記事に対するトラックバックURL:

コメント & トラックバック

今日はありがとうございました。
というかこの話おもろいです。 いやーっ仕事が終わって一息、屁垂れっぷりに思いきり笑わせていただきました。 本人の会話より何倍もおもろいです。 さいこーっ文才あると思います。 これからもちょくちょく読みます。  よろしくっ

Comment feed

コメントする